投資先企業紹介

有限会社 将基酪農【事例紹介】

四国のトップランナーとして酪農業をリード

 

<出資先の概要(2016/10 時点)>
会社名有限会社 将基酪農
代表者佐々木 英樹
住 所 香川県高松市香川町安原下第 1 号 184
業 種酪農業

 

高松市にある 1 棟が約 1 万 6,000 平方㍍という広大な牛舎で、750 頭の乳牛を飼養する有限会社将基酪農。 (以下、将基酪農)。生乳の量や質を高めるため、会社を挙げて健康な牛の管理を徹底し、生産量は年間約 6,000 ㌧におよぶ。 代表取締役の佐々木英樹さん(58)は「現状に満足するのではなく、いろんなことにチャレンジしたい」と 力を込め、今年度の年商を 10 億円と見込む。佐々木さんはスタッフとともに、四国最大級の酪農トップランナ ーとして走り続けている。

 

★最新の設備で牛も人も快適に★

この広大な牛舎を備える牧場の名は「鮎滝ファーム」。高松空港から車で東へ約 15 分のロケーションにあ る。平成 25 年、アグリビジネス投資育成株式会社(以下、アグリ社)から約 4,000 万円の出資を受け、 さぬき市にあった牧場を移転・新たに建設した。総事業費は 4 億 8,000 万円。12 万 2,000 平方㍍の敷地内に は広い牛舎のほか、一度に 32 頭の搾乳ができるパーラー方式の搾乳舎、牛ふんの堆肥舎、生後 2 か月までの 子牛を飼養する施設、事務棟などを併設している。 牛のストレス軽減のため、牛舎にはトンネル換気方式の フリーバーンを導入。縦 150 ㍍、横 66 ㍍の横部分には、 84 台の換気扇を備えた。 稼働すると牛舎内には常時風速 2.5 ㍍の風が吹く。外気 が常に流れるため、真夏でも温度や湿度が下がり、「スト レスで乳量や品質が左右される牛にとって、快適な環境が 保てる」と佐々木さんは自信を深める。

 

 

★家族経営からの脱却★

将基酪農は昭和 40 年、さぬき市将基地区で、有限会社として産声を上げた。佐々木さんは大学卒業後、昭和 56 年に就農。当時は乳牛約 30 頭を両親と家族 3 人で管理する規模にとどまっていた。 働きずくめの日々に、「家族経営では休むこともできない。何とかやり方を変えよう」。そう考えた佐々木さ んは中国・四国地方はもちろん、九州の酪農地帯にも足を運んでは数 多くの先進的な経営を見てきた。得た情報、学んだ手法は経営に取り 入れ、従業員も増やすなどして事業を広げた。 「規模拡大するには、もっと人が要る」と意を強くした佐々木さん は平成 13 年 6 月、大阪で開かれた農業法人への就職や転職を考える 人を対象にした合同説明会「農業人フェア」に初めて参加。ここで 現在将基酪農をともに築くことになる立役者と出会う。 取締役部長として佐々木さんの右腕となる皆川靖司さん(41)だ。 大学卒業後、東京でサラリーマン生活を送っていた皆川さんの真剣で 誠実な人柄にひかれた佐々木さんは、熱心に電話をかけて説得。4 か 月後、正社員として迎え入れた。

 

★金融機関もバックアップ★

成長し続ける将基酪農に魅力を感じた皆川さんは、乳牛の世話をしながらサラリーマン時代に培った事務 処理の経験や知識を最大限経営に生かし、佐々木さんが苦手とする部門を支えた。「とにかく数字を伸ばすこと ばかり考えていた」と、がむしゃらに働いた当時を振り返る。この頃、日本政策金融公庫も積極的に経営を サポート。緻密な計画を立ててシミュレーションを基にアドバイスするなど、将基酪農を資金面で支えた。 融資を受けることに対し、佐々木さんは当初、不安を感じていた。しかし、プロならではの対応に触れるに つれて信頼関係が生まれ、やがて経営者としての自信につながっていったという。こうして佐々木さんは平成 21 年、代表取締役に就任。皆川さんを迎え入れた頃、150 頭だった乳牛は、270 頭を超えるまでに増えてい た。

 

★新天地へ夢を託す★

ここまで順調に成長してきた将基酪農だったが、規模拡大に伴い、さぬき市にあった牧場が手狭に感じるよ うになってきた。右肩上がりだった販売高が伸び悩んだのもこの頃だ。増頭とともにパートや外国人研修生を 受け入れてスタッフを増やしてきたが、それに見合った成果が思うように出せなくなっていたのだ。 二人は頭打ちの現状を打開するために、さらに広い土地を求めて、牧場の移転先を探し始める。さまざまな 候補地をあたり、数年がかりで高松市鮎滝地区にたどり着いた。観光農園として活用されていた跡地に、 将基酪農の希望を託した。 こうして平成 25 年 6 月、アグリ社からの出資を受け、将基酪農の新天地ともいえる高松市に 「鮎滝ファーム」が誕生した。 飼養頭数は 550 頭、従業員 16 人が働く農業法人として新たな一歩を踏み出した。 しかし、佐々木さんは「これでいいと思ったら、終わ り。もっと皆で学習し、技術を向上させたかった」と、さ らなる高みを求めた。 皆川さんは「社長がチャンスだと感じた時、常にすぐ 動けるようにしたかった」と作業効率を見直し、従業員 一人一人が、自ら考えて行動するように励まし、導いた。 2 年後の 27 年 11 月には牛舎(6,342 平方㍍)を増築。 規模は乳牛 750 頭、子牛 100 頭を飼育するまでに拡大、 その後も順調に売り上げを伸ばし、今に至る。

 

 

★成長を支えたキーポイント★

将基酪農が成長し続けてきた背景には、大きく分けて2つのポイントがある。一つ目は飼養管理技術の向上 だ。「牛も人も元気な牧場」を目指し、牛の夏バテを解消するトンネル換気を牛舎に取り入れたり、パーラー 方式の搾乳施設を整えたりして、牛にも人にも快適な環境を整えた。牛舎に足を踏み入れると、さわやかな風 が抜けるのが体感できる。そのせいか、驚くほど糞尿のにおいもしない。 健康な牛を育てるために、飼料業者と連携して給餌にも気を配る。生乳の量と品質を左右するからだ。 二つ目のポイントは人材育成。男性 18 人、女性 10 人の計 28 人(平均年齢 29 歳)のスタッフを、①親牛 のケアと生乳製造②子牛の育成(給餌・病気のケア)③堆肥の製造と牛舎内の清掃といった作業別に 3 チーム に分けた。どのチームに配属されるかは、構成人数や本人の希望、能力、経験によって決まるという。各 チームには 10 年以上のキャリアを持つベテラン社員を配置。リーダーの指示のもと、チームワークで作業にあ たる。 女性の登用も積極的に行う。常に 100 頭以上の世話をする子牛の育成チームは、女性がリーダーを務める。 性別を問わず、実績次第でキャリアアップもできる制度を 整えている。 今春、入社した岡夏未さん(22)は「女性であることに 壁はありませんね」ときっぱり。一次産業に携わることへ の充実感を味わい、毎日が充実していると目を輝かせる。 規模拡大とともにスタッフを増やしてきた佐々木さんは 「面白い人材が集まるようになってきた。やる気のある人 たちが増えてくるのも楽しみの一つで、ここまで来られた のはスタッフのおかげだ」と社員の働きを讃える。

 

 

★資金調達をしやすく★

農業法人は平成 27 年に 1 万 8,857 法人と、20 年前に比べて 3.8 倍に増えた。しかし、農業法人は自己資本 が脆弱である上、収益が気候に左右されることが多く、一般の金融機関からの借り入れは、ハードルが高い。 事業規模を拡大する上で資金調達が欠かせないものの、担保や保証金、返済条件など課題は多く、融資を 受けてまで挑戦することをためらうケースも少なくない。 このような農業法人の資金調達を支援するアグリ社について、佐々木さんは「金融機関のサポートは規模を 拡大する上で足がかりになった。資金面での助けがあったから、今がある」と評価する。 「これからも飼養管理技術の向上と人材育成に力を入れ、意欲のある人を増やして経営を行っていきたい。 地域との連携を模索するのも課題だ」と将来を見据える佐々木さん。将基酪農の成長に期待が高まる。