観光の村“白馬”を農業で守り、育てる
【(左)津滝俊幸会長(右)津滝明子社長】
会 社 名 | 有限会社ティーエム |
代 表 者 | 会長 津滝俊幸 代表取締役社長 津滝明子 |
所 在 地 | 長野県北安曇郡 |
事業内容 | 農産物生産(米、ブルーベリー、蕎麦、野菜) |
出資年月 | 2016/6 |
出資金額 | 9,950 千円 |
㈲ティーエムは長野県北安曇郡白馬村で米と野菜、ブルーベリーなどを生産する農業法人です。㈱白馬そだちはティーエムが育てた農作物、およびその農作物の加工品の販売、そして農家レストラン「農かふぇ」を営んでいます。さらに、白馬そだちは農業と観光をつなぐ場として、2018年夏に自社農場の隣接地でグランピング(注)事業をスタートしました。当社グランピングのセールスポイントは、できる限り自然を残した森の中でキャンプができること、当社の畑で採れた野菜や米、白馬の地で生産された肉などを食べられること、そして農業体験ができることです。
1.観光の白馬村を下支えする「農業」
― 津滝会長が農業を始められたきっかけは何でしょうか?
「山や田園風景から成る美しい景色が魅力の一つである白馬村は観光産業で成り立っており、私自身も、もともと民宿を経営していました。しかし観光が盛んになってくると兼業農家が観光業に力を入れるようになり、農業の担い手の減少とともに耕作放棄地が増えていきました。
このままでは白馬の観光に影響が出て、村全体が衰退してしまうのではないか。農業は単に生産をするというだけではなく、田園風景を守ることで村全体を下支えする産業として必要ではないかと考えました。そして、『誰がやる?』と自分に問いかけたときに出した答えが、『誰かがやるのを待つのではなくて自分がやろう』でした。
農業をやろうと決めてから、行政や地元のJA金融機関の方に、ご協力いただきながら㈲ティーエムを設立しました。当初は農作物を生産・出荷するだけでしたが、民宿を営んでいたせいか、人と人とのつながりが好きでしたし、もっと面白いこともやりたいという思いが強くなり、自社での直接販売や『白馬そだち』のブランドをつくり、加工品販売を始めることとなりました」
2.㈲ティーエムがアグリ社の出資を受けたきっかけ
― アグリ社の出資を受けた経緯を教えてください。
「農業界は高齢化により、地域の担い手への農地集約が進んでいます。実際、我々のところにも、農地が集まってくるようになりました。そのため、更なる規模拡大に備え、早い時期から財務基盤の拡充のための情報を集めていました。日ごろからお付き合いのあった、長野県信連さんに私の計画を話したところ、アグリ社(アグリビジネス投資育成㈱)による出資のお話をご紹介いただき、申し込むことにしました」
3.6次化産業に特化した㈱白馬そだちの設立
― 御社のブランドでもある「白馬そだち」と同じ名前で会社を設立した経緯を教えてください。
「しろうま農場・㈲ティーエムで農産物の販売事業や農家レストランの運営に取り組んでいくうちに、商品企画と販売に重点をおいて、将来的には農業と観光を連携、充実させるサービス部門も立ち上げていきたいという構想が生まれました。
その構想を実現するために、農業生産部門と切り離し6次産業化に特化させた運営主体として、加工品のブランド名として浸透してきた『白馬そだち』の名を冠した会社を新たに設立しました。
先に述べたように白馬は観光の村ですが、景気変動やレジャーの多様化などの影響が次第に大きくなってきました。ペンションが使われなくなり、また若者が都会へ出るようになったことから観光業の担い手が減少していきました。その一方で、白馬のパウダースノーや山々に魅力を感じる外国人が建物を買い取り、リノベーションして新たに宿泊業を始める、といった話も出てきました。そうした地域の変化を見て、これは何か仕組みを変えていかなければと考えるようになったのです」
4.農業と観光をつなげる事業の本格化に合わせて、アグリ社の出資を受ける
― 今回グランピング事業に取り組まれた経緯を教えてください。
「農業と観光をつなぐビジネスモデルとして、酒蔵を利用したアグリツーリズムなど様々なアイディアを検討してきましたが、その中から白馬の自然を、より身近に堪能できる宿泊施設として、日本でも浸透してきたグランピングを選びました。長野県信連さんには本事業の構想段階からご相談させていただいており、資金調達を検討する中で、再びアグリ社出資の提案を受けました。ティーエムの方で出資を受けていたこともあり、私の想いや事業展開について理解していただき、スムーズに出資を受けることができ助かりました」
― グランピング事業は、それまでの農業生産や農産物の販売とは異なる新たな取組みですが、どのように事業を立ち上げていったのでしょうか?
「まず、他の地域でグランピングを手掛けている会社にコンサルティングを依頼しました。私には民宿経営の経験はありますが、新たな宿泊形態を模索する中で、自身の考えが正しいか客観的に見てもらうためです。また、各社員が内部にいる人間である私からのトップダウンで動くのではなく、知見を持った社外の人間と直接意見を交わしながら自ら進めていくことにより、社員の成長を促し、事業の成功に結び付いていくと考えたのです。
そして、社員の中からグランピング事業の担当者を決め、グランピング全体の仕組み、テントのサイズ感や、料理の提供方法など、意見を出し合いながら進めていきました。 『Re: HAKUBA』という名前も社員のアイディアです。
最近はSNSなど口コミで流行っていくので、情報発信にも力を入れようと、SNSや画像処理が得意な社員を雇用しました。とはいえ、その業務専門で雇用しているわけではなく、定植から草刈りなどの農作業にも従事しています。農業が何か心と身体で理解できればこそ、自然と作業の大変さ、食べてもらいたいという思い、季節感など、伝えたい事が見えてきます。体感に基づかなければ、いくら広告を作っても言葉に力が無いと私は考えます。
料金は一泊二食・飲み物・農業体験付で大人一人3万円(税別)を頂戴しています。初めは社内でも『そんなに高くてお客様が来るのか』と不安の声もありましたが、いらっしゃった方には「充実した内容・リーズナブルでとても満足した」という言葉も頂いています。食事やお酒も含まれていますので、一般のキャンプとは異なり持参するものが少なく、またテントを張る手間もないので女性グループや家族連れにも喜ばれています。また提供する食材のほとんどが自社農場で採れたての野菜等です。そして一番の特色は、田植え体験やとうもろこし収穫体験など、季節ごとの様々な農業体験が楽しめることです。「モノ」の消費から「コト」の消費へとニーズが高まっている中、都会での「日常」から離れ、白馬の自然の中でひと時の「非日常」を過ごすことに価値を見出してくださっているのではないでしょうか」
5.持続可能な社会を作っていくために「持続可能な会社」を作る
― 農業生産での今後の事業展開について教えてください。
「現在の圃場は130haですが、増やしても150haくらいまでと考えています。そのうち米については作業のバランスを考えると今の70haより増やしていく予定はありません。現在交付金が出ている作物については、将来的に交付金が減額になった時でも、しっかりと売れる農産物の作目や単収が上がる作業を工夫していきます。
また、冬場は農作業がないので社員はスキー場で働いていますが、中には『常に農業の仕事をしたい』という思いを持つ社員もいるので、今後は年間を通して農業ができる仕組み、例えば観光にも結び付けやすいイチゴの観光農園などを考えています」
― ここで働く方々の一日の流れを教えてください。
「毎朝8:30に朝礼がありますが、その15分前から掃除や燃料補充など作業の準備をします。朝礼後は各自持ち場で作業し、お昼は事務所に戻って一緒に食事をしながら午前中にあったことを各々共有します。午後も各自持ち場に戻って作業の続きを行い、17:30には全員集まり終礼を行います。一日のうちで何回か定時集まるというのは、もともと私自身が作業の進捗を把握するために始めたことなのですが、どれも長年継続しているので、社員も皆、習慣になっていますね」
― 他にも働き方において工夫していることがあれば教えてください。
「SDGs(持続可能な開発目標)で掲げられている『持続可能な社会を作る』ためには、『持続可能な会社を作る』ことに取り組んでいかなくてはならないと私は考えます。世の中では働き方改革が叫ばれていますが、当社ではずっと8時間労働、有給の取得率も100%です。基本的に残業もあまりありません。女性の産休・育休もあり、実際に復帰して活躍している社員がいます。
また、全員に会社からスマートフォンを貸与し、ミーティングなどもスマートフォンの画面を使いペーパーレス化を進めています。作業時はカナル式のインカムを付けて、離れた場所にいても話し合いができるような仕組みを作っています。例えば圃場の水や肥料の状態を見ながら調整する必要がある時に、圃場と水源など別々の場所にいても連絡を取って作業ができるので非常に便利です。
作業の記録は事務所に置いてある1台のパソコンを使っています。当社に合わせて開発したソフトが入っているので、非常に使いやすいのです。ただ、ゆくゆくはクラウド上で管理するようになるとは思います」
6.いつか叶えたい、「古民家」で究極のサービスを
― 津滝会長がこれから目指していくものや夢はありますか?
「白馬村にお客様が一番多くいらっしゃる季節は冬です。既に事業化したグランピングは夏場が中心となるのですが、将来的には、季節を問わずきちんとした食事や宿泊ができ、専用の農園を持ってフルサービスでお客様に楽しんでもらえる場所を、古民家を中心に据えて作りたいと考えています。
私は究極のサービス業は宿泊業であると思っています。宿泊業は部屋を提供すればいいというわけではありません。周辺の整備や建物のデザイン、室内のインテリアを整えることから始まり、企画やセールス、接客、食材調達から食事の調理まで、その道のプロフェッショナルがお客様をおもてなしします。
一方、古民家には日本の農業文化が凝縮されています。特に寒い土地の古民家は、農耕馬が一緒に暮らし、屋根裏で養蚕をおこなえるなど一つの家ですべてか完結する造りになっているのです。
『次世代に農業文化を伝えながら、お客様にホスピタリティを感じていただける”古民家ホテル”を創る』、これが私の夢です」
7.さいごに
今回は津滝俊幸会長とその奥様である明子社長のお二人にお話を伺いました。インタビューを通して、いいお米や野菜などを作ることはもちろん、作った農産物やその農産物を使った加工品をお客様に届けることに力を入れていること、そして「白馬村の観光を下支えする農業」への強い想いが感じられました。
白馬村へお越しの際は、「農かふぇ」に立ち寄って「白馬そだち」の食材を使った白馬農家の家庭料理をお楽しみください。また、「Re: HAKUBA」でのグランピングで一晩かけて白馬の自然を満喫する旅はいかがでしょう。春夏は清流が流れる森の中で涼しく快適に、秋冬は暖房完備で快適に過ごせるので雪の日でも楽しめます。
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