投資先企業紹介

株式会社 秋香園【事例紹介】

九州一のきのこ産地から世界へ。アグリ社出資第1号としてのあゆみ

【自然豊かな大木町】

【栽培、収穫、梱包、販売と大勢のスタッフが在籍しています】

会 社 名株式会社秋香園
代 表 者代表取締役 樽見 拓幸(2021/1~)
所 在 地福岡県三瀦郡大木町
事業内容きのこ生産販売
出資年月2003/3
出資金額30,000千円

秋香園は福岡県西南部にある大木町で、きのこの生産販売を行う農業法人です。大木町は、町内に掘割(クリーク)と呼ばれる水路が走る水と緑の豊かな街で、古くから稲作地帯として農業を中心に発展してきました。近年はきのこの生産に地域が一丸となって力を入れており、今では九州一のきのこの産地と呼ばれるほどになりました。

当社は元JA職員の山口氏を中心とした3名で1993年に農事組合法人として設立。きのこの生産、国内販売の他、輸出や技術指導で海外展開にも力を入れてきました。2021年1月に、今後の展開を見据えて株式会社化されました。

今回は、2020年11月に実施した山口茂徳氏(当時理事長)、廣松伸幸氏(当時理事)、大藪耕士氏(当時営業部長)3名へのインタビューと、株式会社化により当社代表取締役に就任された樽見拓幸氏から2021年4月に伺った話を基に、当社についてご紹介していきます。

先人の農業法人を見て「きのこ」での創業を決意。

― 秋香園を設立した時のことを教えてください。農事組合法人として始められていますが、設立メンバーの中にきのこ農家のご出身の方がいらっしゃったのですか?

山口「ここ大木町はもともと農業の町で、我々の前に2社、法人で農業をしているところがありました。彼らはコメ・麦・大豆だけでは経営が難しいと考え、きのこの生産に取組みはじめ、1973(昭和48)年にえのき、1983(昭和58)年にひらたけ、1990(平成2)年頃からはぶなしめじと徐々に品種を増やしていました。先人である地域の農業法人がきのこの生産を核に、コメ・麦・大豆を栽培して農業経営をされている、という環境のなか、農家の長男が3人集まって「秋香園」をスタートしました。

私の場合、実家は農家といっても田んぼが少しで、JAの種菌センターに勤めていました。種菌センターというのは、大木町の特産化のために『きのこの種菌』を作る施設です。そこで地域の農業法人の方たちが利益を出して経営をされていている様子を間近で見ていて、『自分たちもやってみようか』と思うようになりました。
農業法人に勤めていて生産面に長けている樽見は技術担当理事、経理ができる廣松は総務担当理事、そして私山口が理事長として、3名でスタートしました」

 

― 異なる強みをお持ちの3人で設立されたのですね。農事組合法人を設立後、はどのようなタイミングで規模拡大されてきたのでしょうか。

山口「1993(平成5)年に秋香園として法人化し、1994(平成6)年に補助事業を活用してしめじ栽培施設を建設、その翌年1995(平成7)年から実際にきのこの栽培を始めました。
廣松から『5年ごとに規模拡大しようよ』という提案もあり、それを目指してやってきました。きのこの栽培を始めて5年目の2000(平成12)年に1回目の規模拡大を行い、しめじの生産量は2倍まで拡大しました。その後、2002(平成14)年にまいたけ、しいたけの生産に着手したのですが、まいたけの栽培施設の建設を検討する中で、日本政策金融公庫(旧農林漁業金融公庫)の職員からアグリ社の出資を受けてみたらどうかという話が出てきました」

「一番バッターならやります」出資先第1号として、アグリ社の出資を受けて得たもの

― 先ほど、規模拡大のタイミングでアグリ社のことを聞いたということでしたが、その時のことを教えていただけますか。

廣松「当時、公庫が主催している勉強会があって、そこでアグリビジネス投資育成の話を聞きました。まだ出資というのは珍しかったですが、公庫の担当職員の方が詳しく説明してくださったので興味を持ちました」

山口「当社の財務状況から出資を受けることができると聞き、せっかくやるなら一番が良いと思い『一番バッターならやります』と手を挙げました。先ほどお話しした舞茸の栽培施設はアグリ社の出資による資金で建てたものです。」

 

― 実際に出資を受けてよかったこと、メリットはどんなことでしょうか。

山口「設備投資や規模を拡大する場面でしたので、投資のための資金調達ができて助かりました。それから、『アグリ社が出資している会社なら大丈夫だ』と、外部からの信用が得られている感じることあります。ほかには、税制や補助金など経営に関する様々な情報をいただけるのもメリットだと思います。我々が仕事で東京に行く際にはアグリ社のオフィスに近況報告に伺ったり、福岡の当社にご訪問頂いたり、その時その時わが社の状況を見て適切な助言や役立つ情報を頂きました。アグリ社がいなかったら、知らなかったことも結構あり助かりました。これからもよろしくお願いします」

【山口氏:秋香園創設者の一人です】

国内有数の「きのこの産地」ならではの苦労と、そこから生まれた強み

― きのこの産地として大企業からも注目を集めているエリアかと思います。それゆえのご苦労もあったのではないでしょうか。

山口「はい、九州のなかでもこのエリアはきのこの産地として大企業が参入してきています。以前から大企業のエリンギやぶなしめじの施設がありましたし、たしかに、生産や販売の面では競争が大変な場面があります。実際に自社のまいたけの栽培施設が完成し生産量が増加した頃、一足先に近隣に大企業の栽培施設が新設されていたために、供給過多で市況低迷の憂き目にあったこともあります。
一方で、近隣なので動向が分かりますし、技術力や生産力など刺激になる面もありました。あちらは立派な研究施設を持っていましたが、こちらも『種菌センター』があったので、種を作るところから負けないよう地域がまとまり頑張っていくことができました」

 

種菌もノウハウも全てシェア。大木町は町が一丸となって、高品質きのこの生産を実現している「九州一のきのこ産地」

― 大木町のきのこ生産においては、種菌センターの存在が大きいのですね。きのこ生産に関して、こだわっている点などを教えてください。

山口「種菌センターでは、消費者が美味しく食べれて見た目が良いものと、生産者が限られた施設の中で収量を確保できるもの、それらを両立させるよう品種改良をやっています。今もいくつか新品種を開発中です。
まず、種菌センターから生産者のところに何種類か種菌を提供、モニターとして栽培してもらいます。それから、実際に、味や見た目、収量、生産にかかる日数などを比較して選別しながら、最終的に一つに絞っていきます。
きのこの胞子を掛け合わせて始めてから品種を絞るまでに2年以上、実際に部会全体で出荷していくまでには、さらに1年ぐらいはかかります」

 

― 種菌センターは地域のきのこ農家の方が共同で運営しているのでしょうか。

山口「もともと種菌センターは、1987(昭和62)年頃の事業で第三セクターとして農協や各事業者からの出向で運営していました。ちょうど私が種菌センターで働いていた頃です。
その後、各法人が出資をして株式会社化し、今では大学で専門の勉強した人が研究者として入り、新品種選びを進めています。新品種開発は、各事業所からメンバーを選出してプロジェクトチームを作り、実際の栽培結果を持ち寄りながら進めています」

 

― 地域のきのこ生産レベルを上げるために、新品種開発の他に取組まれていることはありますか。

山口「そうですね。農家と言うと自分の作っているものや技術は隠して教えないというイメージがあるかもしれませんが、ここ大木町のきのこ部会組織では、『出荷する分の品質をそろえよう』『栽培技術は全部共有しよう』という流れが強くあります。
同じ種菌を使うだけではなく、毎月1回技術検討会を開催して、培地は何を使って、どういう管理をしていているのか、具体的に情報交換を行うので施設の大小に関わらず、部会で出荷するきのこは、品質をある程度統一して出荷できています。この検討会があるおかげで、万一生産にブレが生じた時にも、何が問題なのかわかりやすくなります」

 

― 大木町の恵まれた自然環境だけではなく、きのこ農家の方々が一丸となった取り組みにより『きのこの産地』となっていることがよくわかりました!

山口「ありがとうございます。この種菌センターや部会があるからこそ、大木町は産地として残っているのだと思います」

 

― 秋香園の販売先としては、やはり九州管内が多いのでしょうか。

山口「当社の商圏としては西日本です。関東までだとやはり運賃コストが大きいのですが、関西までは何とか勝負ができます。九州から関西への市場便は結構多く、運送コストも抑えることができるのです」

 

― これまで、商圏を広げられるのに商談会等を活用されてきたとのことですが、詳しくお聞かせください。

山口「一番大きいのは日本政策金融公庫のアグリフードEXPOの展示会ですね。これまでの新規取引先の半分近くはアグリフードEXPOがきっかけで取引開始となった覚えがあります。当社は来場者の目に留まるように、毎回同じ黄色ののぼりを使っているので、覚えていただきやすいようです。
ただ、2020年はコロナの影響でアグリフードEXPOも現地開催が無くなりました。商談はオンライン中心の年でしたが、オンラインだとなかなか商品の特徴を伝えるのが難しいです」

 

― 海外展開については、いかがですか?きっかけなどを教えてください。

山口「当社では輸出を行っているほか、台湾で技術指導も行っています。輸出先は香港が中心なのですが、これは農林中央金庫で開催している香港商談会に参加したことがきっかけです。国内ではきのこは冬場の商品という認識が強く、夏場は需要が減少するため売上が伸びづらいのですが、香港では通年で一定の需要があるため、夏場の売上に寄与しています。台湾での技術指導は台湾でぶなを作りたい方が、視察にやってきたことがきっかけです。国内のいくつかの産地に視察を行かれたそうでして、その中で当社の技術力に目を付けて技術指導の依頼がありました。当初は悩みましたが、廣松が『こういうこともやってみよう』ということで、話を受けることになったのです。大企業にも負けないようにこれまで培ってきた技術力が海外から評価されるのは嬉しいことです。」

【大藪氏:海外展開で重要な役割を担う一人です】

秋香園創立者、そして今のリーダーが目指すもの

― 秋香園創立者のお二人が考える、今後の目標や目指すものがあれば教えてください。

山口「売上高が5億円を超えてきたので、次の目標は10億円です。秋香園を設立した当初は、それぞれが工場を作ってやっていくイメージでしたが、大藪をはじめ若い人たちが入ってきて、10年後20年後にどうしていくかといった事業展開も考えていく中で、農事組合法人から株式会社化することを決意しました」

廣松「私も10億というのがひとつのラインだと思っています。現状だと、夏場は消費の落ち込み、冬場は単価や生産量の上限があって、まだ当社だけで10億円を達成することは厳しい状況です。今後は地域を巻き込んだ形で取組んでいきますが、それがゆくゆくは地域貢献にも繋がって行けばいいなと思います。

具体的にはこれからですが、消費量が落ちる夏向きの商品を何か作りたいですね。また、香港など日本以外の国では、夏の消費量が落ちることもないので、輸出にも一層力を入れていきたいです。
実は、香港でも家庭での食事が増えたことで、量販店のきのこの需要は伸びている状況です。当社の出荷量も僅かながら増えています。今後、シンガポールやマレーシアなど、東南アジアの他の地域への輸出にも積極的に取り組んでいきたいです」

【左から大藪氏、山口氏、廣松氏】

【左から山口氏、樽見氏】

― 2021年1月に、農事組合法人秋香園から株式会社秋香園となりました。
新たに代表取締役に就任された樽見様、ぜひ今の代表としての思いと目標を教えてください。

樽見「秋香園設立以来、志は変わりません。関係機関及び、秋香園に関わって頂いた方々の協力、支えなく秋香園の存続、継続は無かったと思います。常に感謝の気持ちを忘れず、秋香園が存続することこそ、関わって頂いた方々への恩返しかと考えています。『目標達成のために最善を尽くす』『きのこ栽培に自信を持ち 誇りを持つ』役員全員の価値観の共有が、株式会社秋香園をより一層強く出来ると判断しています。人の集まる秋香園に、そして自らも楽しみ人々にも喜びを与える。こうした心構えで頑張っていきます。素直な心は人を強く正しく聡明にしてくれると思います。これからも考える、創る、行動する、日々精進、努力していきたいと考えます。この集大成が売り上げ10億円目標だと考えます」

 

取材日:2020年11月5日、2021年4月
取材:須貝、溝上
執筆:溝上